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During AHA2008 New Orleans

AHA2008の期間中、開催地ニューオリンズにおいてアディポネクチンとアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)という、
最近話題の2つのテーマに焦点を当てたMorning Seminarが開催された。その概要を紹介する。

アディポネクチンと心血管系疾患

  • Kenneth Walsh,PhD Kenneth Walsh,PhD
    Director,Whitaker Cardiovascular Institute,Boston University School of Medicine
  • 筒井 裕之 先生(座長) 筒井 裕之 先生(座長) 北海道大学大学院医学研究科
    循環病態内科学教授

ボストン大学のWalsh氏は、Molecular Cardiologyの視点からアディポネクチンの心血管保護作用のメカニズムを検討した成績を紹介した。それによれば、アディポネクチンはAMPK(AMP-activated protein kinase)のシグナリングを活性化することで、一酸化窒素(NO)産生を促し、これが心血管保護に働く。しかし、現在分かっているアディポネクチンの作用機序は、アディポネクチンの機能の氷山の一角なのかも知れないともいう。さらに同氏は、肺傷害に対するアディポネクチンの保護作用を示す成績も紹介した。同講演の座長は、北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学教授の筒井裕之氏が務めた。

アディポネクチンはAMPKを活性化しNO産生を導く

本日はアディポネクチンをめぐる我々のラボの成績をご紹介したい。現在、世界各国で肥満が問題になっているが、肥満に深く関連しているのがアディポサイト(脂肪細胞)である。ともすれば悪者扱いされるアディポサイトだが、ストレスから生体を守るとともに飢餓に対する備え、免疫調整などの良い働きがあることも事実だ。

最近、脂肪組織は内分泌器官であることも分かってきた。脂肪組織が分泌するアディポカインのうちTNF-α、レジスチン、IL-6などは催炎症性作用を持ち肥満を促進させるが、本日取り上げるアディポネクチンは抗炎症性作用を持ち肥満を阻止する方向に働く。アディポネクチン低値は、インスリン抵抗性増大、高血圧・脳卒中・冠動脈疾患などの発症と関連することも分かっている。また後ほどご紹介するようにアディポネクチンはチアゾリジン誘導体(TZD)によって活性化される。

アディポネクチンは、いわば「肥満関連疾患マーカー」である。我々は、アディポネクチンの詳しい役割に関して、アディポネクチン欠損マウスを使って研究してきた。その結果、アディポネクチン欠損マウスは野生型マウスよりも高脂肪食や高蔗糖食の投与によりインスリン抵抗性が増大すること、血管損傷に対して新生内膜肥厚度が大きいことなどが判明した。アディポネクチンは抗糖尿病、抗動脈硬化の働きがあることを示唆するものと言える。また、アディポネクチンは種々の異なった細胞や組織においてAMPKのシグナリングを活性化する。これが、血管保護に働くNO産生に繋がる。

一方、我々はアディポネクチンが虚血傷害から心筋を保護するというin vivoでの成績も得た。虚血再灌流傷害が起きると、アディポネクチン欠損マウスでは野生型マウスよりも心筋梗塞サイズの増大が認められたが、これは心筋アポトーシスと関連していた。また同時にAMPKの誘導が傷害されていた。しかし、アディポネクチン投与により梗塞サイズやアポトーシスの減少が認められた。培養心筋細胞においても、アディポネクチンはアポトーシスを阻害した。しかし、このアディポネクチンの作用は、dominant nagative(dn)AMPKによって打ち消された(Shibata R et al.Nat Med 2005;11:1096-1103)。

アディポネクチンの重要性は、後肢に末梢動脈疾患を作成したモデルマウスでも示された。すなわち、レーザードップラー血流量による検討では、野生型よりもアディポネクチンが欠損した同モデルマウスでは血管の回復(血管新生)が傷害されており、野生型では手術7日後では50〜60%、28日後では80%まで血流が回復しているが、アディポネクチン欠損マウスではそれよりも血流回復が有意に劣っていた(図1)。またアディポネクチン投与による血管新生はdnAMPK筋肉内注射によってブロックされた。

図1 アディポネクチン欠損マウス(APN-KO)における虚血後肢(ischemic hind limbs)の血管新生の傷害(n=6)

アディポネクチンが秘める未知の可能性

今、ご紹介した成績からも、アディポネクチンはAMPK活性化を通して心血管を保護していることは明らかだが、それがアディポネクチン受容体(1および2)を介した作用だけなのかどうかは今後の課題である(図2)。AMPK活性化といったような、現在分かっているアディポネクチンの作用機序は、アディポネクチンの機能の氷山の一角なのかも知れない。

それにしてもアディポネクチンは、血漿蛋白の0.01%を占めるほど生体内に豊富に存在するのはなぜか?例えばTNF-αなどはng/mL単位での存在なのに、アディポネクチンはμg/mL単位で存在している。またアディポネクチンは、膠原質の尾と小球の頭といった通常とは異なる構造を有していて、オリゴマー(比較的少数のモノマーが結合した重合体)を形成するのはなぜなのか?今後、こうした疑問に答えることがアディポネクチンのさらなる機能解明の道を開くものと思われる。

図2 アディポネクチンは細胞内の受容体を介したシグナリングを活性化する

アディポネクチンの抗炎症作用の機序をめぐって

アディポネクチンの抗炎症作用の機序に関しても、まだ十分に解明されているとは言えない。そこで我々は、この問題にアプローチした。アディポネクチンは、コレクチン蛋白に似ている。コレクチンは、コラーゲン領域や糖鎖認識領域などのドメインからなっており、微生物表面の糖鎖を認識するpattern recognition moleculesとして炎症コントロールに重要な役割を果たしている。肺サーファクタントなどもコレクチンに属している。アポトーシスを起こした細胞も、コレクチンによって認識され迅速にマクロファージによってクリアランスされる。しかし、このクリアランスに何らかの問題が生じ、初期段階でマクロファージによって処理しきれなかったアポトーシス細胞が蓄積して、やがて催炎症作用を発揮するという可能性が考えられる。そこで我々は、「アディポネクチンはC1q(補体第一成分の亜成分)や肺サーファクタント蛋白などに作用して、マクロファージによるアポトーシスが起きた細胞の取り込みを促進させることで炎症を抑制する」という仮説を立てこれを検証した。

その結果、主に4つの点が明らかになった(Takemura Y et al.J Clin Invest 2007;117:375-386)。第1点は蛍光化剤FITCで標識したアディポネクチンをFACSスキャンで解析することにより、アディポネクチンは死亡した細胞をオプソニン化する(食菌作用を高める方向に持っていく)ということである。第2点は、in vitroにおいてアポトーシスが起きた細胞を蛍光色素マーカーTAMRAで標識しFACSスキャンで解析すると、アディポネクチンはアポトーシスが起きた細胞の貪食作用(phagocytosis) を促進するということである。第3点として、アディポネクチン欠損マウス、野生型マウスを使った検討から、in vivoにおいてもアディポネクチンはアポトーシスが起きた細胞のphagocytosis を促進することが分かった。第4点として、自己免疫疾患易発症性マウス(lprマウス)とアディポネクチンが欠損マウスを掛け合わせたダブル欠損マウス(APN-KO/lpr)では、リンパ節腫瘍の重量(図3)や糸球体ふさ状分枝の重量が増大し、アポトーシスが起きた細胞のクリアランスが低下し(図4)、炎症が増悪していた。

以上のデータは、アディポネクチンがアポトーシス細胞のクリアランスを促進することで、全身性の炎症を抑制することを示唆している。

図3 野生型、アディポネクチン欠損マウス(APN-KO)、
自己免疫疾患易発症性マウス(lpr)、
APN-KO/lprにおけるリンパ節重量(20週齢、n=6〜14)図4 野生型、アディポネクチン欠損マウス(APN-KO)、
自己免疫疾患易発症性マウス(lpr)、
APN-KO/lprおけるアポトーシス細胞のクリアランス(10週齢、n=4〜6)

TZDがアディポネクチンを介して自己免疫疾患を改善

TZD投与により、アディポネクチンの発現が増加するという事実が知られている。これは自己免疫疾患易発症性マウスにおいても認められた。そこで我々は、TZDがアディポネクチンに依存する形で自己免疫疾患を改善するかどうかを検討した。その結果、炎症性疾患として知られる全身性エリテマトーデス(SLE)のモデルマウス(MRL/lprマウス)において、TZDはまさにアディポネクチンに依存する形で自己抗体産生の減少、腎機能の改善などをもたらすとのデータを得た(Aprahamian T et al.J Immunol 2009;182:340-346)。これはアディポネクチンによる抗炎症作用によるものと思われる。

アディポネクチンに肺傷害の保護効果

最後に、肺におけるアディポネクチンの作用を検討した我々の成績を紹介したい。呼吸によって常に外界と接している肺は、アレルゲンやROS(活性酸素種)などによるストレスに晒されているだけに、炎症を緩和させる機序を備えていると推測される。我々の研究の結果、肺にはアディポネクチンが存在することが肺胞洗浄液における検討から分かった。一方、アディポネクチン欠損マウスの肺胞のマクロファージでは、TNF-αやMMP(matrix metalloproteinase)12、E-セレクチンといった抗炎症メディエーターの発現が認められた。また、肺には気腫様の表現型が認められた。一方、肺胞のマクロファージに対するアディポネクチン前治療により、TNF-α、MMP12の発現が抑制された。アディポネクチンには急性の肺傷害を保護する働きがあると考えられる(Summer R et al.Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2008;294:L1035-1042)。

我々はさらにアディポネクチンの詳細な研究を進めている。これまでの研究活動に携わった日本からの留学者を含む、我々のラボのスタッフの協力に感謝したい。