2009年3月4日開催
循環器疾患研究は21世紀に入り、進歩が加速するだけでなく専門化・細分化にも拍車がかかった。そこでわが国の専門家にお集まりいただき、循環器疾患研究・治療の現状と今後の見通しについて意見を交換していただいた。
小室 一成 先生
千葉大学大学院医学研究院 循環病態医科学 教授/大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 教授
森下 竜一 先生 大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学 教授
北風 政史 先生 国立循環器病センター 心臓血管内科 部長
北村 和雄 先生 宮崎大学 循環体液制御学 教授
福田 恵一 先生 慶應義塾大学 坂口光洋記念再生医学教室 教授
江頭 健輔 先生 九州大学大学院医学研究院 循環器内科学 准教授
萩原 誠久 先生 東京女子医科大学 循環器内科学 教授
加藤 洋一 先生 順天堂大学医学部附属順天堂浦安病院 循環器内科 准教授
ブレークスルーが必要な慢性心不全
本日は、わが国の循環器領域における課題と展望について話し合いたいと思います。まずは、慢性心不全から始めましょう。
遺伝子改変マウスを使った研究が可能になって以来、心不全発症・進展における分子生物学的機序の解明は大きく進みました。今後は、それらの知見を治療に結びつけるためのブレークスルーが必要だと考えています。β遮断薬が使えるようになったとはいえ、慢性心不全の生命予後は極めて悪く、悪性腫瘍と同じくらいです。どのような薬剤を追加すれば、生存率を改善できるとお考えですか。
従来とはパラダイムの異なる、新しいタイプの治療薬が必要になるような気がします。抗体医薬などが期待できるのではないでしょうか。
どのような抗体医薬をお考えですか。
心室壁の構造を変化させる薬剤をイメージしています。線維化の改善などですね。現在の標準的治療であるβ遮断薬やレニン・アンジオテンシン(RA)系抑制薬の有用性は、どちらかというと心臓の「機能的側面」への介入によって得られている。したがって、構造に直接働きかける薬剤が出てくれば、相乗作用により予後は大きく改善されるのではないでしょうか。
直接構造に作用する薬剤としては、リアノジン受容体の安定化薬が検討されていますね。これにより心筋の筋小胞体からの異常なCaイオン漏出が抑制され、心筋におけるCaハンドリングが正常化すると想定されているようです。
不全心の形成に心筋細胞クロマチンの構造変化が関与しているのを、われわれは見いだしています。この構造変化への介入というのも1つの戦略になりうるのではと期待しています。
私たちは降圧系の諸因子、すなわちアドレノメデュリンや心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)などの活性化が有用ではないかと考えています。ただ、アドレノメデュリン、ANPはいずれもペプチドですから点滴を行なえる急性心不全にはそのままの製剤化で良いのですが、慢性心不全では経口で服用できるアゴニストやアドレノメデュリン、ANPの分解を抑える薬剤の開発が必要だと思います。
β遮断薬などとは異なった「心臓交感神経系への介入」も1つのオプションになりうると考えています。
と申しますのも、ヒトの不全心では交感神経が、副交感神経との中間型に変化しているのです。交感神経と副交感神経は同じ神経系から分化しているので、幼若化したと言えるでしょう。この変化が心不全成立の原因であるか結果なのかまだ不明ですが、病態を修飾しているのは間違いありません。
ほかに新たな治療法についてありませんか?
植え込み式除細動器(ICD)などのデバイスも、改善の余地があるでしょう。現状では「電池の小型化」、将来的には「電池を必要としないICD」の開発が進められているようです。
その点は携帯電話で先に解決されるかもしれません。バッテリーを内蔵しないタイプの携帯電話の実証実験が行なわれるようです。
ICDはそれ以外に、コストと誤作動の減少が大きな課題ではないでしょうか。
誤作動は大きな問題ですね。誤作動率は現在20%以上です。心房細動を誤認識して除細動してしまうのです。多いに改善の余地があります。
また、話題が少しそれますが、今後は「拡張障害」心不全についてもっと研究する必要があるでしょう。これまで慢性心不全ではもっぱら「収縮障害」が研究されてきましたが、心不全患者のおよそ半数は「拡張障害」と言われています。発症メカニズムや治療法は大きな研究テーマです。
高齢者では拡張障害が増加しますから、早期の発見方法の確立も必要です。可能であれば「予防」が最も好ましいと思います。
![CVD.JP [Cardiovascular Disease] CVDの日本人のエビデンス集まる](../../img/cvd_header.gif)
